すべてここが果てだったとしても

魔物に襲われて状態異常に陥ったレイヴンの心臓魔導器を、アレクセイとリタが元に戻そうとする話です。
10/12開催の多角関係Webオンリー『両手繋いで2』の展示作品でした。

○この話の前提になるあらすじ
ザウデ後一命を取りとめたアレクセイは、レイヴンとリタたちの尽力を経て遠い大陸に住まわされて帝国のために働くことになったよ! なんだかんだでレイヴンとリタもそれを手伝うためにアレクセイの居所やその周辺に滞在しているよ!

○内容について
・アレシュ(アレクセイ×シュヴァーン)前提です。
・成人向けの描写があります。というか設定と展開がエロ同人です。

『いつか解けるまで』をほんのすこーし前提としているところはありますが、↑上記のことだけ分かっていれば読めると思います。

初めてザ・エロ同人みたいな設定の話書きました。魔導器の可能性は無限大……!!



2024-10-12
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 時を忘れるくらい精霊術の考察にふけり、アレクセイがやっと書物を片したのはずいぶん夜分遅くだった。静けさは家じゅうに満ちて、かすかに風の音が鳴る。
 アレクセイの流刑地であり、おそらく終の牢獄となるであろうこの居所は海辺の丘に建っている。平時は静かなのだが、なぜかあとふたり人間が居着いているせいで、やたらと騒がしいことのほうが多い。
 しかし今夜は、久々に平穏な夜が訪れたのだ。
 けれど何か予定を言付けられた覚えはない。ふたりがここに帰らない日は、事前に伝えられるのが常だった。この辺りは集落も少なく、予想外の事態は多いだろう。そう思い当たると、とたんに胸の奥がざわつく。
「慣れきったものだな」
 首を振って、懸念を追い払う。当たり前のことだと思ってはいけない、心の中で戒めておく必要があった。罪人たる自分を縛る鎖であろうとする光たちは、本来ならもっと遥かな空で瞬く運命を持っているはずなのだ。このような辺境の地にいつまでも留まらせてはならない。

 そう思いはするものの、心に去来した感覚は誤魔化されてはくれない。穴のあいたような、空気を少しつめたく感じるような、空しさに似たものが胸を締める。
 このような感覚に囚われてはならない。どうにか気にせず就寝しようと寝台に腰をかけたとき、唐突に、扉の開く音が家じゅうに響いた。
「アレクセイ!」
 リタの声を聞いて驚きと安堵に立ち上がる。どたばたと自室に飛び込んできたリタの背後には、苦しげに息を吐くレイヴンの姿があった。確かめようと一歩踏み込んだ瞬間、男がどさりと床にくずれおちた。
「ちょっと!?」
「あー……なんとか、ここまで帰れて……安心して、気が、抜けて……」
 アレクセイとリタでなんとか力を合わせ、寝台にレイヴンの体を持っていくことができた。治療用に少し余裕を持って設計されたアレクセイの寝台ではあったが、しかし三人も乗るとさすがに狭い。
「いったい何があったのだ」
「エアルクレーネの調査につきあってもらってたら、大型の魔物に襲われて、なんとか撃退したと思ったらいきなり倒れたのよ」
 説明しながらリタはレイヴンの衣服をくつろげ、心臓魔導器に手をかざす。森の中で魔物の気配もあるし、誰が来るかわからなかったからその場で診られなくて、なんとかここまで帰ってきたのよ――制御板を操るリタの口調には疲れと焦りがにじんでいる。
 レイヴンは壁に背を預け、荒い息を吐いている。見たところ怪我を負っているというわけではなさそうだ。となると心臓魔導器による技の乱発だろうか。ひどく苦しげな様子だが、どこか違和感がある。このようなレイヴンをアレクセイはいつか見たような気もしていた。
「何、この数値……生命力が停滞してる……マナへの変換効率も低下しすぎてる、どうして」
「見せてみろ」
 アレクセイは近く寄り、リタとともに制御板の数値を確かめる。リタの言った通り、魔導器の循環機能がかなり低出力に抑えられ、ほぼ停滞してしまっている。レイヴンの内にある生命力自体が規定量よりも少なくなっているのもあるが、加えて、何かの異常がその流れを押しとどめているようだった。
「だいじょぶ……俺なら……へいき、だから」
「こんな状態で平気なわけないでしょ! 元はといえばあたしが魔物に気づくのが遅れたから、あんたが技を発動させることになって……」
「いやあ……無事でよかったわ」
「ぜんぜん無事じゃない!」
 じわりと涙をにじませるリタに、アレクセイは制御板を見つめながら問いかける。
「リタ、襲ってきたのはどのような種だった」
「植物型で、長い蔓を持ってた。レイヴンがとっさに防御壁を発動させて……そしたらすごい光が一瞬あふれて」
「君は魔物の攻撃を受けたのか?」
 今度はレイヴンに問いかける。ぐっと一瞬顔を歪ませたあと、こくりと頷く。
「すんでのところで発動させたと思ったけど、一発は防ぎきれんかったみたいで……光があふれたとき、体に違和感が走って」
「君たちはエアルクレーネのそばで戦っていたのだったな」
「そう、あの光はもしかして、エアルクレーネがマナの流れを増幅させたのかしら……」
 アレクセイは顎に手をやり、深い息をついた。レイヴンは時折呻きながら、自分の腕をもう片方の腕で押さえつけている。紅潮した頬と、濡れた目がちらりとこちらをとらえてはぎゅっと閉じられる。その動作の意味が理解できた。
「おそらくだが、エアルクレーネによって増幅された魔物の攻撃が、この状態異常を引き起こしているのだろう」
「状態異常……? 薬とか、数値の調整とかでは治らないの?」
「軽いものなら薬でも対処できるが、かなり体の深部まで影響を受けている。さらに生命力を吸い取られてしまったことで深刻なものになっている」
「じゃあ、どうしたら治るの」
 必死に食ってかかるように問うリタに、アレクセイは苦々しくうつむく。
「状況から察するに、魅了に似た術が体の奥深くに入り込んでいる。それが生命力の流れを押しとどめている」
 魅了の術は、対象のエアルを効率よく吸収するために相手を同質の属性へと変化させる。そうなれば対象は目の前のものに同化しようと、自発的にエアルを差し出さずにはいられなくなる。それが傍目には衝動に突き動かされ心を奪われたように見える。
 エアルクレーネによってその効果が増幅し、さらに心臓魔導器の技が干渉したために、魔導器の循環機能に異常をきたし、暴走状態に陥っていると考えられた。

 アレクセイは遠い記憶を思い出す。極秘任務から帰ってきた彼が、似たような状態になっていたことが数度あったのだ。
「魔物という対象が消失した今……衝動を操る異常により目の前の対象に生命力を放出したい欲求に駆られているということだろう」
「なんで、こんなに数値が低いのに……さらに放出したら」
「そうだ、危険な状態だ」
 こうして会話しているあいだにも、レイヴンの息はますます荒くなっている。ここに来るまでに理性を保つだけでかなりの力を使ったのだろう。ふと、その手が自らの下肢に伸びる。
「はっ……ごめん、も……一人にして、しばらく……大丈夫、だから」
 レイヴンは耐えきれないといった様子で服越しに股ぐらのあたりを荒々しく擦った。アレクセイたちの前で必死に抑えていたのだろうが、レイヴンの手のひらのなかでぎちりと硬いものが張りつめているのがわかる。
「ちょっと、なに」
 何が起きているのか飲み込めないといった顔でリタはレイヴンを見つめている。刺激の強い光景だったのか、その頬はうっすらと紅潮している。動作の意味を少しは理解しているらしい。
「リタ、一度外に出ていろ。私が対処する」
「対処って、どうやって」
「生命力の放出と補給を同時に行う……以前にも、数度やったことがある。君に見られていると彼も居たたまれないだろう」
 レイヴンは緩慢な動作をつづけながら、近くに寄ったアレクセイをぼんやりと見つめる。こうして、彼の熱に浮かされた表情を見るのはずいぶん久しぶりだった。
「あたしも、やる」
 リタがこちらに近く寄り、両袖をまくる。
「あんたが対処法を知ってるなら、あたしも知らなきゃいけないものだわ」
「君は、この状況を正しく理解しているのか?」
 すでに彼女には刺激の強いだろう光景と情報が与えられている。リタには早くこの部屋を出てもらって、アレクセイが一人で処置するのがどう考えても最適解だ。
「あたしはあんたたちを生かすためならなんだってやるって、とっくに決めてるの。あたしに気遣う暇があったら、早く始めないとレイヴンが危なくなるわ」
 さあ教えて、と急かされる。アレクセイは息をついて、真剣な少女の顔と欲に耐える男の顔を交互に見つめた。レイヴンがリタに対してそうした欲を抱いたことがあるのかどうかは知らないが、このような姿をさらすのは彼にとっても避けたかったことだろう。過去の経験があるとはいえ、それはアレクセイに対しても同じかもしれない。
 リタがこのまま退かないだろう理由も、彼女とそれなりの時間を過ごしてきた今では理解できる。レイヴンの心臓魔導器に彼女が並々ならぬ覚悟で向き合ってきたからこそ、アレクセイたちは今ここにいられると言っても過言ではないだろう。レイヴンが今も生きているのはリタの力によるところが大きく、大罪を犯したアレクセイがこの場所に留められているのは二人の尽力によるものなのだから。

 リタに言われた通り、こんな問答を繰り返しているうちに時間を浪費してはいけない。
「……いいだろう。おまえも、いいな」
 レイヴンは熱っぽい息を吐き、一瞬目を細めてリタを見やった。しかしぐっとうつむき、ふるふると首を振る。
「いや、二人とも、頼むから、出て、俺は、一人で……」
「この期に及んでそんなことを言うのか」
 アレクセイはぐいとレイヴンの顎をつかみ、唇をすくいとる。深く合わせながら、首筋をなぞるとびくりと震えた。舌を差し入れ、唾液を流し込むように動かし、口内をなぞっていく。レイヴンは震える手でアレクセイの服をぎゅうと掴んでくる。ごくりと喉が鳴ったのを確かめ、唇を離すと透明な糸が垂れ下がっていく。
「……処置というのは、こういうことだ」
 リタを見やると、彼女は目を見開いてこの光景をじっと見つめていた。恐れよりも、好奇のまさる表情をしていた。
「生命力は、命から命へ伝播する。食事をとること、呼吸をすること……外部のエアルを取り込むそれと同様に、人肌を触れ合わせることや体液を流し込むことでも補給ができる」
「……精霊召喚にも通じる話ね。彼らは祈りによって生命力を受け取るけど、人間は物理的な刺激が必要ってこと」
 リタは存外冷静につぶやいて、アレクセイたちのそばにより近く寄ってくる。
「ふたりぶんなら、属性が多重化するはずよね? あたしも同じようにやる」
「本気か」
「何度も言わせないで」
 レイヴンはアレクセイの接吻によりほんの少し余裕を取り戻したのか、リタが近づいてくるのを制止しようとする。
「リタっち、だ、だめだって」
「なによ、こいつならいいけどあたしはだめなの?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「文句ならあとにして」
 なおも言葉を紡ごうとするレイヴンの唇を強引にふさいで、両手ではさむように頬を押さえる。舌先を出して、探るようにレイヴンの唇をちろちろと舐めている。
「どうしたらいいの?」
 問われるも、横から見ている身では何を言っていいのか分からない。いまだ戸惑っているレイヴンも、助けを求めるようにこちらを見てくる。
「……彼女がここまで言っているのだから、君も諦めて協力してやるといい」
「きょ、協力って……」
「それが異常のせいにしろ、彼女に触れたい、触れられたいと思う欲が確かにあるのだろう」
「そんな……ことは」
 レイヴンは戸惑うように目を逸らす。アレクセイはリタの頬に指を這わせ、その目をのぞき込んだ。
「直接教えるのでもかまわないか、少しだけだ」
「……いいわ」
 覚悟の決まった眼差しがアレクセイをとらえたとき、自らの奥深くがかすかに疼いたような気がした。彼女の唇をとらえ、小さな舌を招きいれる。舌先を絡めて、唾液を塗りつけるように動かす。
「難しければ、口内を舐めるようにするだけでもいい」
 顔を離すと、リタは惚けた顔で唇を軽くぬぐい、頷いた。二人の接吻を間近で見つめていたレイヴンは困惑の表情を浮かべながらも、濡れた瞳に隠しきれない欲がだんだん滲み出ているのが、アレクセイには見てとれた。
「うまくできるかわからないけど」
 リタはふたたびレイヴンにくちづけ、舌を差し入れようとする。ぐっとつむられていたレイヴンの目は少しずつ開かれ、己の唇に触れる少女の表情をとらえる。
 じゅぷ、と二人のあいだに音が鳴り、ぽたりと唾液がこぼれる。レイヴンは自分からも舌を差し出し、こぼれそうな液を余さず舐めとろうとする。だんだんと深くなる接吻に、リタの喉からくぐもった声が漏れる。その声に反応したのか、レイヴンの体が一瞬波打ち、片腕がリタの背を引き寄せる。手のひらは必死に求め探るように体をなぞっていき、胸のあたりまで到達する。
「んっ……!」
 リタはびくりと仰け反って、膝立ちになっていた足をへなりと崩す。長いくちづけだったからか、互いに息が上がっている。
「ご、ごめん、リタっち」
「なんで謝るのよ」
 へたりと頭を垂れているレイヴンをよそに、リタは衣服を脱ぎはじめる。ためらいなく脱ぎ落とされた服は床に放られ、薄布の下穿きひとつきり以外、彼女の肢体がさらされる。
「肌を触れ合わせなきゃいけないんでしょう」
 彼女の年頃にしてはほっそりとした薄い体の線が、薄闇に浮かびあがる。人の欲の底も濁りもまだ知らないのだろう白い肌が眼前にあることに、とてつもない禁忌を犯しているような気持ちになる。
 レイヴンはしばらく惚けたようにリタの体を見つめていたが、はっと我に返るように目を逸らした。異常の気配は依然色濃く出ているのに、この男がここまで躊躇っていることにアレクセイは舌を巻く。羞恥なのか己の尊厳のためか、彼女への想いゆえか、もっとも強い理由がどれなのかは分からないが。
「彼女は君に許しているのだから、苦しむことはないだろう」
 アレクセイは壁とレイヴンの間に腕を差し入れ、彼の衣服も剥ぎとっていく。もともとはだけていた上衣が取り去られ、心臓魔導器の赤く鈍い光がよりはっきりと見えるようになる。
 そのまま背後から抱き込むようにレイヴンの胸元に手を這わす。埋め込まれた金の飾りと肌のあわいをなぞり、胸の尖りを指先で軽く弾いてやる。それだけでレイヴンはびくりと震えた。二本の指で摘むようにしてやると、欲に融けた表情を隠す余裕がじわじわとすり減っていくのがわかる。
 アレクセイに体を預けて仰け反るレイヴンにリタはするりと肌を寄せ、魔導器の中心にくちづけた。それは欲のにおいと切り離された、神聖で侵されざる行いのように見えた。
「大丈夫だからね」
 幼子をあやすような優しい声が、ごく小さく口のなかで呟かれる。彼女は魔導器や精霊に向き合うとき、いつもそうした深い慈しみを見せる。

 以前アレクセイがレイヴン――シュヴァーンを鎮めてやったときは、自分の目の届かぬところで異常を身に受けた彼に腹立たしさを覚え、仕置きの意味で責め苦のような快楽を与えつづけた。シュヴァーンは咽びを押し殺しながら、アレクセイが何をしようとも一切抵抗することなく、すべての行為を受け入れた。
 しかし今回はどうだろう。時が流れアレクセイたちにもさまざまな変化があったが、この場にリタがいることこそが信じがたい変化の証なのだろう。彼女はこれまでも、レイヴンと心臓魔導器のためにならなんだってやってのけた。
 生命力の循環を促すためとはいえ、やっていることは欲の発散のためのみだらな行いとたいして違いがない。しかしその深い慈しみと熱情が、この行為を崇高な儀式のように塗り替えていくように思えて、アレクセイは息を飲んだ。

 リタの唇は少しずつ胸もとをすべっていき、筐体の飾りの影に隠れたもうひとつの尖りにたどりつく。そこを探りあてたのに気づくと、ためらいなく口のうちに含んだ。
 ああ、と素直な呻きが喉から解き放たれる。アレクセイは胸先を擦りつづけたまま、レイヴンの下の衣服もくつろげてやる。とっくに張り詰めて布地をかたく押し上げていたものがようやく外気に放たれ、アレクセイの手の中に受け止められる。
「一度、楽になるといい」
 するりと擦り上げたレイヴンの熱いものはびくびくと波打ち、押しこめていたものを今か今かと放出したがっていた。アレクセイは手の動きを速めながら、半開きのレイヴンの唇に舌を這わす。食むように深く合わせ、口内にくぐもった声を舐めとっていくように舌を絡ませる。
 リタはレイヴンの肌をあたためるように撫でさすりながら、尖りをころころと舌先で転がしている。低い唸り声がアレクセイの口内に響き、手に包んだものがどくりと弾けた。白濁が薄闇に溶け、それぞれの体とシーツに飛び散る。
「は、あ……っ、ごめ、汚した……」
 レイヴンは肩で息をしながら、慌てて枕元にあった布地を取り上げる。使っていいかとアレクセイに目線で問うてくるので、黙って頷く。
「いいわよべつに、あとで洗えばいいでしょ」
 リタはそう言いながらしげしげと自分の手の甲に跳ねた飛沫をながめている。興味の心が勝ったのか、それをふいにぺろりと舐めとって、む、と顔をしかめた。
「ちょっと、そんなもの舐めないの」
 レイヴンは戸惑いとともに叱るような言い方をする。柔らかな布をリタの体にも押し当て、拭っていく。それが胸元に滑ったとき、中心に擦れたのかリタの体が小さく跳ねた。
「んっ」
 小さく漏らした声が耳に届いて、レイヴンの表情がふっと変わる。一度精を吐いて少しのあいだ鎮まっていた異常の気配がふたたび湧いてくるのを感じた。布地をぽとりと取り落とし、眼前にあったリタの首元に顔を埋めてはくはくと息を吐いている。
「まだ、おさまらないのね」
「君の体に反応したのだろう」
「あいにく、こいつの好みの体じゃないと思うけど」
「嗜好と情愛は異なるものなのだろう」
 人間は複雑な生き物だ、そう呟くとリタは意味をはかりかねるように首を傾げた。
「今度は君に協力してもらっても構わないか」
「何をすればいいの」
「君の生命力を直接分け与えてもらいたい」
 いまだじっと動かずに耐えているレイヴンからいったんリタの体を引き離し、アレクセイの腕の中に後ろから抱えるようにする。
「さあ、彼女にも返してやるといい」
 呼ばれたレイヴンは苦しげに魔導器のあたりを引っかき、目を逸らす。
「こんなこと、本当は許されない……」
 そう言いながら、抗えない力に引き寄せられるようにレイヴンはじりじりと近づいてくる。リタがその手をぐいとつかんで、自分の胸に押し当てた。
「さんざん人の体馬鹿にしてきたんだから、そのぶん責任とりなさいよ」
「せ、責任って」
「それなのに許してあげてるんだから、早くして」
 手をつかんだままで、赤く染まった顔をそむける。レイヴンは困ったようにかすかに笑い、ひとつ息を吸って吐いた。
「……すまんね、痛いことはしないから」
 レイヴンの手がやわらかく膨らみを撫ぜると、ぴくりと肩が揺れる。もう片方の手も添えて、両の手のひらの中でふるりとささやかな形が変わっていく。
 熱い息を吐きながら、レイヴンの唇が胸の先に触れる。やさしくくちづけるように押し当て、そっと出された舌がころころと舐め転がす。
「あ、あっ」
 ぎゅっと閉じられていたリタの目がぱっと見開かれ、甘やかな声が漏れる。もう片方の小さな尖りを指で摘まれ、舌先が動くたびにびくびくと小刻みに震えるリタの体が温度を上げていく。アレクセイはシーツをぐしゃりとつかんでいたリタの手を取り、指を絡めて握ってやる。
「気持ちいいか」
「あ、さっき、こんな感じだったの、あたしがしてたとき」
 レイヴンは乳房に舌を這わせながら頷く。
「すごい上手だったけど……さっきアレクセイに教えてもらったみたいに、誰かに教わったの?」
「んなこと、あるわけっ……ないでしょ」
「じゃあ、そんなとこも天才なのかね」
 しばらく中心を避けるように動いていた唇が、ふっと戻ってきて硬く尖りきった先端をじゅっと吸い上げる。リタは声をあげて仰け反り、握った手にぎゅっと力をこめてくる。
「彼女の才もあるだろうが、君を救いたい心の賜物と思うがな」
「……こんなにもらっちゃって、いいのかね」
「せめて、存分に快くしてやるといい。幸い彼女はそちらの才もあるようだからな」
 アレクセイは鼻先で髪をかき分け、隠れていた耳に唇を触れさせる。音を立てながら吸いつくようにくちづけていくと、逃れようとするので肩を引き寄せる。そのまま首筋をつつとなぞってやると、おとなしく腕のなかにくたりと収まった。
「そろそろ、こちらもいいだろう」
 下のほうに手を滑らせ、なめらかな腿を撫で上げながらゆっくりとリタの片足を開かせる。薄布越しの秘められた場所にレイヴンの視線が向けられる。反射的に閉じようとした足がレイヴンの肩に当たる。
「あたっ」
「ごめ、でも、見ないでよ」
「見せてくれないの?」
 熱に浮かされた瞳で見つめられ、リタが息を呑むのが分かった。レイヴンが布越しにそっと指を触れさせる。
「すっかり湿っちゃってる」
「や、やだ」
「君が快くなってくれた証だ、恥じることはない。これが君のうちから溢れる生命力だ」
 リタは羞恥に染まった顔で、みずからの体を見つめた。
「これが、補給に使えるのね」
「そうだ。先ほどと同じように、君はただ体を委ねていればいい」
 アレクセイとレイヴンとで下着を取り去り、濡れそぼったその場所が外気にさらされる。しばらく食い入るように見つめていたレイヴンが、いよいよ理性が焼き切れたようにその場所に吸いつく。
「ああ、っ!」
 いきなり与えられた強い刺激にリタの体が大きく跳ねる。レイヴンは貪るように蜜を舐めとり、吸い上げていく。夢中で顔を埋めている姿を見て、アレクセイの体の奥底がまたずくりと疼く。
 違和感をおぼえて、そっと自分の下肢を確かめる。ザウデで負った怪我と後遺症の影響か、ほとんど反応しづらくなっていたものが久方ぶりに硬く熱を持って、足の間で存在を主張している。
 アレクセイは熱を逃すように長く息を吐く。こんな昂ぶりを覚えるのは初めてだ。とにかく治療行為をつつがなく進めようと割り切っていたが、ようやく自覚した。レイヴンとリタとこうして体を預けあっている状況に、内なる自分がどうしようもなく情欲を掻き立てられていることを。

 レイヴンは水音をたてながら蜜を吸い続け、リタは体を震わせている。時折、舐めとった蜜を花芯に塗りつけ、舌先でつつくようにされると首をふるふると振りながら嬌声を上げる。
「そこ、だめ……っ」
「君の体の快い場所だ。快くなればなるほど、泉が溢れてくる」
「わかってる、けどっ、おかしくなりそうで」
 頭では分かっていても、初めて感じる強い快楽に戸惑っているのだろう。ずっと同じ箇所に触れられつづけ、責め苦のようになってきているのかもしれない。
「恐れることはない、君は何も考えず感じるままでいい」
 声を流し込むように耳元に唇をあてると、びくんと腕のなかの体は素直に震える。背中から回していた両手をすべらせ、膨らみの下側をさするように触れてやる。指先を伸ばし、先端をくりくりとやわらかく転がしてやるとより高い声が彼女の喉からほとばしる。
「リタっちのここ、どんどん、溢れてくる……」
「ああ……あたし、できてる? あんたに、ちゃんと……っ」
「うん、いっぱい、もらってる……」
 快感におぼれながらも補給のことを気にするリタに応えながら、レイヴンはこぼれるものを残らず食もうとするように唇を開く。舌が蜜をすくいとるように大きく動き全体を舐め上げ、花芯ごと口の中に含まれる。
 そうしてむしゃぶりつくように顔を埋めながら、片方の手で勃ち上がった自身を夢中で擦り上げている。もはや取り繕う余裕もなくなったようで、思うがまま生命力を求め、欲望をあらわにしたレイヴンの姿がそこにあった。
「ああ、あ、あたま、ちかちかする、おかしくなる、こわいの」
 止まらない刺激に、リタは首をふるふると振って訴える。安心させるように、アレクセイは髪にやわらかくくちづける。
「何があっても私たちがいる。そのまま、果てまで達するといい」
 リタの手が無我夢中に何かを求めるように揺れて、胸に添えられたアレクセイの手と、開かれた足をつかんでいたレイヴンの手に触れる。どちらも指を絡めて握りかえしてやると、ぎゅっと力がこもった。
 おかしい、おかしくなる、と繰り返すリタに、アレクセイは荒い息を吐く。とうにおかしくなっている。自分たちがこんな風にあられもなく乱れて快感を求めあうなど。レイヴンの魅了の術がアレクセイたちにも伝播したのだろうか。
 けれどこれがなぜか自然なことのように感じる自分に気付き、不思議な思いがした。二人の前でなら、どんな姿を見せても許される。そんな風に感じ、体の奥底の枷が外れる音がした。
 白い首筋に顔を埋め、舌を這わせながら時折吸いつく。少女の肌に跡を残しながら、硬くなった自身を服の縛めから解き放ち、背中に押し当てる。
「いっそ、ともに果てまで狂おう……」
 アレクセイはリタの胸の先端に指を押し当て、小刻みに揺らすようにしてやる。動きを速めながら、抱き寄せた背に硬い欲の塊を強く擦り付ける。なぜこんなことをしているのかと咎める理性を、体に突き抜ける快楽と二人の声と吐息が塗りつぶしていく。
 リタがひときわ大きく体をがくがくと震わせて声を上げ、レイヴンが獣じみた呻き声を漏らしたのと同時に、アレクセイも込み上げたものを抑えることなく解き放った。



 気を失ったリタを起こさないように、体液で汚れたシーツを替えた。アレクセイがその作業をしているあいだ、レイヴンはリタの体を拭いながら服を着せてやっている。
「心臓の具合はどうだ」
「面目ないです、もうすっかり落ち着きましたよ」
 壁に背を預けるよう促し、アレクセイは心臓魔導器の制御盤を起動する。数値は正常範囲内におさまっており、循環を留めていた異常も消え去ったようだ。
「数値上も、君の生命力は無事回復したようだ」
「こんなの、もう勘弁ですよ」
 ばつの悪そうな顔で苦々しく笑う。
「私は構わないが、彼女がここまでするとは思わなかった」
「同感です。でも、一度決めたら引き下がらない子ですからね……」
 レイヴンはリタの寝顔を見つめ、乱れた前髪をそっと指先で撫でつける。こわごわとした、割れ物に触れるような仕草だった。
「君ももう眠るといい」
「はい、実を言うと、もう一歩も動きたくないくらい眠たくて」
「異常が消えた今、睡眠による回復が必要な場面だ」
 リタの隣に身を横たえ、壁のほうを向く。アレクセイの寝台は大きいが、二人が眠っていると縮んでしまったかのように小さく見える。
「本当に、面倒かけました」
「それはもういい」
「でも、昔……あなたに抱かれたときのことを思い出しました」
 こちらに背を向けているレイヴンの表情は見えなかったが、穏やかな声色だった。
「あんな酷い記憶をか」
「酷いって……まあ、そうかもしれませんね。あなたはずっと俺に怒っていた」
 レイヴンは軽く笑ったように肩を揺らした。
「でも、あのときは、俺にとってなくてはならないものだったのかもしれません」
 アレクセイは何も答えられなかった。あの頃は、すべて彼にやり場のない感情をぶつけていただけに過ぎなかった。死んでいると自分を称する彼の中に人間の欲を見つけ、引きずり出して、ちっぽけに満たされるだけの行いだった。
「今も、ここにあなたがいて、それで、リタっちもいて……あんな風にめちゃくちゃになりながらも、ああ、よかったって……思ってしまったんです」
 思わず震えた拳を握りこんだ。あのときアレクセイが感じた、すべてが自然なものであるというとてつもない安堵感と歓びを、同じように感じていたというのだろうか。
 しばらくすると、レイヴンのかすかな寝息が聞こえてきた。寝台の傍らの椅子に腰かけ、寝静まった二人を背に窓のほうを見る。薄青い月明かりがカーテンの隙間から漏れ出ている。
 罪人の身であるのに、あの瞬間は我を忘れていた。すべてを解き放ち狂いきることしか考えられなかった。あのときの昂ぶりは、今までに経験したことのないものだった。
 二人とともにいると、己が揺らぐことばかり起きる。許されるはずのないものばかりがこの身の内に積み上がっていく。不安定な積み木の城の上で、アレクセイは落ちるのを怖がっている。本来なら自らの手で崩し地に落ちてしかるべきなのに。
「そこで何してるの」
 背中から声をかけられ、アレクセイは屈んでいた体を起こす。リタが横たわったままこちらを見ていた。
「起きたのか、具合はどうだ」
「心配する相手違うでしょ」
「隣の奴ならもう心配はいらない。数値も正常値に戻って、今は眠りに落ちた」
「そう……よかった」
 心から安堵するようにほっと息をつく。リタのそうした様子を見るたびに、アレクセイの胸の奥は言い知れぬ感覚に満ちる。感じているものの中身は異なれど、きっとレイヴンもそうなのだろう。
「君の体の具合はどうだ。治療行為のためとはいえ、君に無理をさせたことは事実だ」
「ちょっとぼうっとするくらいで、大丈夫よ。無理なんてしてない」
 リタは自分の額に手を当てて、長く息を吐く。生命力を分け与えた影響もあり、おそらく重い倦怠感と眠気が残っているのだろう。
「ありがと、あんたのおかげでちゃんと治せた」
 そうして、大仕事を立派にやり遂げたときのようにすがすがしく微笑んだ。
「私は何もしていない……むしろ、場の勢いで君の尊厳を揺るがすようなことを強いてしまったと思っている」
「話聞いてた? 無理してないって言ったでしょ。あたしが一緒にするって決めたことなんだから、なにも強いられたりしてない」
「そうか……君についてさらに評価を改める必要がありそうだ」
「褒めてるの?」
「無論だ」
 アレクセイは椅子の向きを変え、寝台のほうに向き直る。
「そこで寝るつもりなの?」
「君たちがそこを占拠してしまったからな」
「あたしがこっちに詰めたら寝られるわよ、ほら」
 リタが壁際のレイヴンのほうに寄ると、ぎりぎり一人分のスペースが確かに空いた。アレクセイは息をつきながら首を振る。
「なぜわざわざ身を寄せ合って眠る必要がある」
「レイヴンはこのまま起こすわけにいかないし、あたしだけ向こうの部屋に行ってもいいけど」
 とても気怠そうに体を起こそうとするので、制止した。
「いい、分かった……そうさせてもらおう」
 アレクセイがしぶしぶと寝台に横たわると、すぐそばにぴたりとリタの体があり、居たたまれなくなる。
「これでは、やはり……」
「あたしはいいから、変な気つかわないで」
 リタはレイヴンの背とアレクセイの肩に挟まれ、ゆっくりと瞬きをする。
「ぜんぜん……嫌じゃなかった。これでいいって、これがいいって、思った……今も」
 歌うように、寝言のようにリタはつぶやく。とろりと微睡んだまなざしがアレクセイを間近で見つめてくる。アレクセイがそっと頭を撫でてやると、その手をぎゅっと掴まれた。
「次はもっと……ちゃんと勉強しておくわ」
 アレクセイが顔をしかめると同時に、リタのまぶたがゆっくり落ちて、すうと寝息をたて始める。手をしっかりと掴まれたままで、今さら離れることもできそうにない。
「次など、あってたまるものか……」
 苦々しく呟くと、ふとレイヴンの体がころりと寝返りを打った。リタの頭に鼻がぶつかりそうになっている。
 思わずふっと笑みがこぼれた。アレクセイは少し身を乗り出すと、レイヴンの頬に唇を当てた。それから、リタの髪をさらりと掻き分け、その額にも唇を落とした。ふたりが少しだけ身じろいだような気がしたが、気付かないふりをする。そのままアレクセイは、ふたりを抱き込むようにして狭い隙間に身を沈めた。







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