さっきからカップを持ち上げる回数が増えている。コーヒーを飲んでも飲んでも喉が渇いているような気がするし、作業の手はすっかり止まっている。じいっと向けられる視線にはとっくに気づいている。けれどぎりぎりまで気づかないふりをする。
「こっち、見なさいよ」
焦れた彼女が椅子を蹴って、胸ぐらをつかんでくる。このまま実験机に押し倒されそうな勢いだ。
「わ、わかったわかった……でも、いま?」
「……もういい」
手をぱっと離してそっぽを向いてしまう。するりと戻ってしまう前に、やわらかく引き寄せる。
「いいよ、リタっちがしたいなら」
ばか、と小さく呟いた唇をそっとふさぐ。ゆっくりはなれると、目を伏せて何も言わない。赤らめた頬でじっと黙っている様子が、ひとつひとつを噛みしめてくれているように見えて、いじらしくなる。
「もう一回?」
「……もう一回、だけ」
制限がついてほっとした。彼女が満足する前に放課後が終わってしまうことはなさそうだ。けれどばくばくとさっきから響いている鼓動をおさめるのは難しそうだ。合わせる瞬間に目を閉じれば、余計に頭の中はリタのことでいっぱいになって、少し気を失いそうになったことに気付かれていませんようにと祈った。