貴方はレイリタで『なんて言ったの?』をお題にして140文字SSを書いてください。 http://shindanmaker.com/375517
夕暮れどき、街の喧噪の中で、リタは細々とした器具の入った袋を抱えながら歩いていた。
実験にいるものをまとめ買いしたものの、予想以上にかさばってしまいこれではほとんど前が見えない。それでも、帰るまでそんなに距離はないんだから、とひょこひょこ歩を進めていると、急に前が暗くなり、ぽすん、となにかにぶつかる衝撃があった。
「リタっち、こんなん持ってふらふら歩いてたら危ないでしょ」
「おっさん!?」
まさかレイヴンに会うなどと思っていなかったリタは、ぽかんと口を開けたままレイヴンの顔を見つめていた。そうしていたら、ひょい、と袋を取り上げられる。そのまま歩き出してしまった。少し歩いて、「来ないの?」みたいな目でこちらを見てくる。
リタはようやくぽかんとしたままだった口を閉じて、なにかを払うように頭をふるふる、と振って後を追った。
二人で歩いていると、否が応でもちがうことを思い知らされてしまう。身長、年齢、歩き方、それから。
リタが抱えると前も見えないほどかさばる大きな買い物袋は、レイヴンの腕の中にすっぽり収まり、まるで同じものだとは思えなかった。
そんなときに頭をよぎるのは頬を染めるような想像で、リタはさっきより大きくぶんぶんと首を振ってその想像から逃れようとした。
それを見たレイヴンは当然不思議そうな顔で首をかしげている。ああ、なんであたしがこんなことに振り回されなくちゃいけないの。こんなの、
「恋みたいじゃない」
エステルのいつか言った「恋」という言葉がさっと風みたいに吹き抜けていった。それが通り過ぎたあとにリタが見たのはレイヴンの見開かれた瞳だった。
「リタっち、今なんて言った?」
まさか、今の声に出してた?聞かれてしまった?
「な、なんにも言ってない!」
「えー、絶対なんか言ってたって」
「知らない!歳のせいで幻聴でも聞こえたんじゃないの」
そう言ってすたすたと歩いていく。早くここから離れたい。そう思って後ろも見ずに一直線に走りだした。なのに、背後によく知った気配はすぐに追いついてきて、腕をぱっととられてしまった。
「なによ、なんなの」
「リタっち、これおっさんに持たせたまま帰っちゃう気?」
そう言って片手で抱えた買い物袋を見せる。そうだ、荷物を持ってもらってた身で、いったい何をやってるんだろう。
「ごめん……」
リタは眉を下げて申し訳なさそうに謝った。こんなことばかりだ、とリタは思った。いつも頭がいっぱいになって、自分で自分がわからなくなる。
レイヴンはリタの頭をぽんぽんと撫でると、なにごとかぼそっと呟いた。
「…………」
「え?なに、なんて言ったの?」
リタがそう聞くと、レイヴンは頭に乗せたままだった手でくしゃりとリタの髪をもう一度撫ぜて、ぱっと手を離した。
「さっきリタっちがなんて言ったのか教えてくれなきゃ、いわなーい」
「な、なに、そんなのずるい!」
リタが叫んでも、レイヴンはすたこらと歩いていく。二人の歩幅は大きくちがう。リタの足では離されるばかりだ。さっきのレイヴンみたいに追いつくことなどできそうもない。
その歩みを止めようとするには。
「おっさん……!」
リタが名前を呼ぶと、レイヴンはひらりと軽く振り返った。それを見たリタは大きく息を吸い込んで走り出した。
あたしがなんて言ったのか。わざわざ教えてあげるんだから、くだらないことだったら許さないんだから。
一直線に駆けて、レイヴンの胸に飛び込む、というより突撃したリタは、戸惑う腕の中でそっと微笑んだ。
あとがき
なんとか追いつきたいリタのお話。
最初お題をどう表現しようか全然思い浮かばず、とりあえずリタが荷物を持ってよろよろしてる絵が浮かんできたので、あとは成り行きでどきまぎしていただきました(笑)リタ視点は初々しくて楽しいです。
ありがとうございました。